2023年11月に発行された前立腺癌診療ガイドライン2023年版は2016年版から7年ぶりの改定ということになります。
日本泌尿器科学会が編集するこのガイドラインは前立腺癌に対する標準的な診療の指針になるものと考えられ、本来は医療従事者に向けて作成されたものですが、我々患者にとっても重要な情報を含みます。
専門用語がアルファベットの略号で示されるなど、専門外の者にとってややとっつきにくいところはありますが、慣れれば概ね理解は可能と思います。
素人の私なりに改定ガイドラインの概要を整理してみます。
主な改定内容
システマティックレビューの導入
今回の改定版作成にあたり、初めてシステマティックレビューという手法が採用されたという説明があり、ネット検索してみましたが、、、難しい(汗)
一応まあまあ分かりやすかった説明としては、
「学術文献を系統的に検索・収集して、類似する内容の研究を一定の基準で選択・評価を行う研究もしくは研究の成果物のこと」
ということのようで、他にも「複数の専門家や研究者が関わる」とか、「文献を網羅的に調査する」といった記載もあります。
まあ、とにかく一定の基準に基づき、より客観的な評価がされるようになったと理解しました。違っていたらすみません。
委員会での合意形成プロセスの開示として投票結果も記載されています。
また、外部評価やパブリックコメントの意見なども掲載されていてより作成プロセスが分かりやすくなっていると思います。
作成委員会に患者代表が参加
今回の改定では腺友倶楽部の武内理事長が作成委員として参加されています。また、外部評価担当としても患者1名が参加されています。
これは大変画期的なことですね。
医療従事者向けのガイドラインとはいえ、医療行為はあくまで患者を対象に行うものですから患者の声を反映させることは本当に重要ですよね。
その結果かガイドラインには「患者・市民の価値観・希望」という項目が設けられています。
クリニカルクエスチョンの数が大幅に削減
ガイドラインはクリニカル・クエスチョン(CQ)と呼ばれる設問が設けられ、それに対する回答が記載される形で構成されています。
今回このCQの数が70から14と大幅に削減されています。
システマティックレビューを初めて採用したがために評価にどの程度の労力が必要か見通せなかったため、重要な項目に限定したといった説明があります。
例えば2016年版にあった以下の設問は2023年版ではありません。
- 陽子線および重粒子線治療はどのような患者に推奨されるか?
- 放射線療法後の二次発癌(膀胱癌・直腸癌)の治療法別発生リスクに違いはあるか?
- 外照射の有害事象とその対策
これでは私のような重粒子線治療を選択したものにとって、重要なCQが削除されてしまっているので、結局2016年版も合わせて参照する必要がありますねえ。
限局がんの治療法について
さて、我々患者にとって最も関心の高い治療法の選択についてですが、私のような高リスクの限局がんの治療法選択について以下の記載があります。(文章は私の方で抜粋、補足、要約している部分がありますので、正確にはガイドラインを参照ください)
CQ07:局所進行性前立腺癌や高リスク前立腺癌の一次治療として、手術療法とホルモン治療併用放射線療法のどちらが推奨されるか?
推奨文:両療法の優劣は明らかではなく、患者の状態や状況、希望等を考慮し選択する
推奨の強さ:推奨なし
20名の委員の内、最終投票では17名が「推奨なし」に投票した結果、この推奨文に対して推奨なしという結果になっています。
結局はちゃんと評価できるような研究がないというのが理由のようです。
なんだそれって感じですね。
高リスク限局癌の患者の治療法選択について関連CQは他に以下の2つくらいでしょうか。
CQ08:高リスク前立腺癌に対する高線量放射線療法において、ホルモン療法の併用は推奨されるか?
推奨文:高リスク症例に対してはネオアジュバント(照射前)とアジュバント(照射後)療法の双方を含めた投与期間が7~24か月の併用を弱く推奨する
CQ10:高リスク前立腺癌に対する放射線療法として、トリモダリティは推奨されるか・
推奨文:高リスク前立腺癌に対する放射線療法として、トリモダリティを弱く推奨する。
いずれも結論や内容は2016年版から大きく変わるような内容ではないですね。
結局評価方法やガイドラインの記載方法については進歩があったものの、少なくとも私のような高リスク限局がん患者にとってその内容については大きな進展はないというのが率直な感想です。
ホルモン治療の有害事象について
CQ8ではホルモン治療の有害事象について注目すべき記載がありました。
「ホルモン療法による有害事象として心血管障害が危惧されているが~」で始まる記述です。
これを読んで、「えっ、そうなの?」、って思いました。
前回のブログでも言及した私の頸動脈のプラークなどへの影響を疑っていたので。
4か月の短期併用群に対して24か月の長期併用群では心血管障害の発生率が有意に高いが、心血管疾患による死亡については差がなかったということのようです。
改めて2016年版を確認してみるとこちらにもありました。
ホルモン治療の章の有害事象の項目に「心血管系に対する影響」という項目が。
このホルモン治療の章はガイドラインの構成上、転移癌など根治治療ができなくなった場合の治療法の解説といった位置づけに受け取れるのでよく見てなかったんですね。
根治治療の治療法選択については、手術か、IMRTか、粒子線か、小線源かのような議論になりがちですが、ホルモン治療併用の扱いもQOLの観点で重要だと思いました。
患者向けガイドライン
なお、このガイドラインとは別に患者向けのガイドライン(解説書?)についても早期に取り組んでいく旨記載があり今後の進展に期待したいところです。
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